ハースストーンと愛妻、あと好きなもの

3児の父・社会人ハースストーンファンの趣味と備忘録

中学3年まで不良でグレていたH君が進学校に行った話

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こんにちは、macomoです。

今日は、思い出話をします。
あるいは、「なにごとも始めるのに遅すぎるなんてことはない」というお話です。それは僕が高校生のころ、修学旅行の帰路でのことでした。


「俺、中3まで勉強したことなかったんだよ」


同じ班のH君は、夜行列車の寝室でそう言いました。

 

いまでは廃止されてしまったブルートレイン。九州・東京間を行く深夜鉄道。僕はクラスの友達と夜を徹して語りあいます。真夜中を走る非・日常感に、みんな昂揚(こうよう)していました。修学旅行が終わってしまう淋しさも手伝って、みんな一秒を惜しむようにして語り、お互いの話にじっと耳をかたむけあいました。

 

たとえば、好きな女の子の話。修学旅行の経験の話。進路の話。オセロで負けない方法の話。カレーを食べすぎて香辛料アレルギーになった話。超ひも理論の話。部活の話。家族の話。そのほか、いろいろ、いろいろ。

 

やがて真夜中をおおきくすぎて、夜よりも夜明けのほうが近くなってきたころ。地元にだんだん近づいてきて、寝落ちしてしまう友達もちらほら出てきたりして。話すこともだいたい煮詰まり、僕たちはもっぱら過去のことを打ち明けるようになっていきました。17~18歳の僕たちが、それまで誰にもしゃべったことがない、自分だけのささやかな歴史。このかぎられた人がついてきている夜と朝のまんなかで、こっそりと切り出す、青春がぎゅっと濃縮されたような特別の空気が流れていました。

 

そしてH君は、はにかみながら話しはじめました。「まあ、これは誰にも言ったことない話なんだけど」と前置きして。どういうわけか、すこし恥ずかしそうに。でも、どこか誇らしげに。「俺、中3の夏まで勉強したことなかったんだよ」と。

 

驚きました。なぜって彼は学年で頭が良い方だったから。そんなはずはない。高校はそれなりの進学校で、ノー勉強で入れるところではなかったはず。どういうことだろう? そう思って彼に続きを聞きます。

 

勉強きらいでグレててさ、先生にボコボコにされて、お前どうしようもねえやつだなって呆れられてて、でも中学3年のとき、お前このままだと本当にどうしようもねえからせめて高校いけよ俺が教えてやるからって先生に言われて。

 

その先生がほんとうに勉強教えてくれたんだよ。放課後ずっと勉強を見てもらうようになってさ。そしたら勉強ちょっと好きになったんだよね。それで俺も本気になって、それまでの人生で一番全力なくらい猛勉強して、全部の教科を小学生からやりなおして、半年もなかったと思う、ほんとに全部やりなおして、死ぬかと思ったけどぜんぶやって、そしたらうちに受かったんだ。

 

え、なにそれ。ドラマかよ!?そういう映画ありそうじゃん! ああ、俺もそう思う、言ってH君はニヤっと笑いました。僕はその時、この世界の主人公はH君なのかもしれない、なんて本気で思ったものです。どん底から階段を全力疾走で駆け上がっていくサクセスストーリーの、かっこいい主役。僕は、僕の人生の主役のつもりでいたけど、H君こそが地球の、日本の、市内にひっそり立ち上がった物語の主人公なのかもしれない。

 

僕はなんだかこの話にえらく感動して、修学旅行でどこをどう歩いてなにを見聞きしたか全部まるごと思い出せないかわりに、H君が照れながら笑った顔だけは昨日のことみたいに心に刻まれています。勉強にはならなかった修学旅行で、せめてなにか持ち帰ったものがひとつでもあるかと言われれば、おばあちゃんに買って帰った生チーズと、この記憶がそうです。

 

あの夜から、はやいもので約20年経ちました。百人あまりの青春を夜通し運んだ寝台列車はもうありません。平成も終わって、令和になってしまいました。僕はそれ以来、始めたのが遅いからという理由で諦めそうになる度に、H君のことを思い出します。H君。入試直前まで先生が手を焼くような問題児だった彼が、人生を取り戻すために死ぬ気で猛勉強して進路を変えた、その事実。勉強するのに遅いことはない。スタートするのに遅すぎるなんてことはない。間に合わないかもしれないから挑戦すること自体をやめてしまおう、、、って諦めなくていいんだぞ、ということをH君はあの夜そこにいた僕たちにだけ教えてくれたんだと思います。

 

時代も変わって、僕も変わりました。嫁さんがいて、子供もいます。彼がこれから成長して、たとえば勉強していて壁にあたり、諦めそうになる日がくるかもしれません。パパ、どうしたらいいだろう。もし僕に頼ってきてくれるようなことがあるのなら、僕はH君の先生みたいなパパになりたい。

 

お前どうしようもねえけどとりあえず勉強はしようぜ、って。僕の大好きなお前だからね、どうしようもなくないけどね。どうしようもないことなんてないけど、たとえどうしようもない子になってても大丈夫だって信じるから。始めたのが遅かった、って後悔するんじゃなくて。遅かったけど、ダメかもしれないけど、やってみようぜ、なんつって。

 

そう言って、子よ、君が君の人生の主役なんだぞ、って。いつか教えてあげたいな、って、いまH君の話を思い出していたら未来がすこし楽しみになってきました。ついでに今年が終わる前に、なにか新しいことを始めてみようかな。

 

それでは、また。